大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2652号 判決

ところで控訴人は、被控訴会社は右土地のうち第三の土地一六坪七合五勺の借地権を宮野元司に譲渡し、控訴人はこれを承諾したので、右土地一六坪七合五勺については被控訴会社は賃借人たる地位を失つたと主張するので考えるに、いずれも成立に争のない甲第一及び第六号証、乙第一四号証、原審並びに当審証人鈴木鈴子、原審証人宮野元司、当審証人加藤富代の各証言、原審並びに当審における被控訴会社代表者加藤博本人の尋問の結果を綜合すれば、前記認定のように被控訴会社と宮野元司とは前記東京都江東区亀戸町四丁目二一九番地の一宅地六七坪六合のうち二一坪九合(以下仮りに第一の土地の従前の土地と称する)の借地権を被控訴会社から宮野に譲渡する契約をし、控訴人の承諾を求めたが、その承諾を得られず、その代りに第三の土地の借地権であれば承諾するとのことであつたため、前記の第一の土地の従前の土地の借地権及び同地上の建物の譲渡契約を第三の土地の借地権及び同地上に存した木造瓦葺平家建事務所一棟建坪一〇坪五合(但し事実上は二階建で二階は畳敷となつていた)を譲渡する契約に改め、昭和三四年九月一八日頃前記三者会談の席上で宮野は控訴人に対して名義書替料として一〇万円を支払つたが、その際控訴人は新たに宮野との間に賃貸借契約書を作成することとし、その案文は控訴人において作成することを約しながら、これを作成しなかつたのみならず、同月二八日付書面で被控訴会社に対して第一の土地の従前の土地の借地権を宮野に対し無断譲渡したとの理由で賃貸借を解除する旨の内容証明郵便を送つたところから、被控訴会社よりこれを伝え聞いた宮野は控訴人の態度に不安を抱き、被控訴会社との間の第三の土地の借地権譲渡契約を取止めることとし、その頃控訴人に対してこれを申出たこと、それまでに被控訴会社は同年夏頃一、二ケ月間第三の土地上の前記建物をも宮野に使用せしめたことがあつたが、右も被控訴会社が第一の土地の従前の土地上の建物を仮換地に移転する都合上右建物に起居していた宮野の従業員を第三の土地上の建物に移転せしめ、右第三の土地上の建物を宮野に同人の建物移転の期間一時的に無償使用せしめたものにすぎず、宮野は第三の土地についても地上建物の所有権移転登記を受けたりその他土地の引渡を受けずに終つたことを認めることができる。

ところで、土地の賃借権の譲渡契約が行われ地主がこれを承諾した場合において、地主と譲渡人との間の賃貸借関係が何時地主と譲受人との間に移転するか、すなわち、譲渡上の使用収益権が消滅し譲受人の使用収益権が発生し、また地主の譲渡人に対する賃料請求権が消滅し譲受人に対する賃料請求権が発生する時期は何時であるかは、当事者の意思によつて定まるべきものであつて、借地権の譲渡契約がなされ地主がこれを承諾したからといつて、常にこれにより直ちに賃貸借関係が移転し、譲渡人は賃貸借関係から離脱するとは限らないものと解するのが相当であるところ、既に宮野と控訴人との間では名義書替料一〇万円の授受がなされたことは前記認定のとおりであり、また、原審並びに当審証人鈴木鈴子及び原審証人宮野元司の各証言によると、前記三者会談の翌日控訴人は宮野が第二の土地上の建物を取毀して新に建築する建物の建築確認申請に必要な土地使用承諾書に捺印した事実が認められるけれども、一方、前記のとおり、控訴人は宮野との間に新に賃貸借契約書を作成することを約したのであり、そして被控訴会社は未だ宮野に対して借地の引渡をしなかつた事実や、成立に争のない乙第一〇号証の一、二、原審並びに当審証人鈴木鈴子の証言及び原審並びに当審における被控訴会社代表者本人の尋問の結果によると、被控訴会社は既に昭和三四年六月九日に同年一二月末日までの分の第三の土地の賃料を控訴人に支払つたことが認められるが、控訴人よりこれを返還したりその他前払の賃料を如何に処置するかについて取決めがなされたなんらの形跡のない事実等に徴すると、控訴人、被控訴会社、宮野の三者間では、賃貸借関係が移転する時期は控訴人と宮野との間の賃貸借契約書を作成する時期として右契約書の作成により賃貸借関係の移転の事実を明確にする意思であつたか、ないしは右契約書において移転の時期を定める意思であつたと推認することができ、少くとも控訴人の承諾により直ちに賃貸借関係が被控訴会社から宮野に移転するものとしたり、前記のように宮野が借地権の譲受の中止を控訴人に申出るまでの期間中に移転の時期を定める意思はなかつたと認めるのが相当であるから、被控訴会社は未だ第三の土地について控訴人との間の賃貸借関係から離脱しておらず、借地人たる地位を失つていないものといわなければならない。

(福島 武藤 今村)

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